壱話

それは、ものがたりのハジマリ。

私の部屋に、私以外の人間はいなかった。
ただ、人が暮らすのに最低限な設備があるだけ。
食事も衣類も知らないうちに置いてある。
真ん中に、一台のテレビ。
それが、私の外との唯一のつながりだった。
外に出ようと思ったら出れた。
扉にはいつも鍵がかかっていなかった。
外の様子も窓から見ることできた。
ーーーーでも。
私は部屋から出れなかった。
誰も、手を引いてくれなかったから。
誰も、外にはいなかったから。



それは、ある冬の日。
いつものようにテレビの前にいたら、カタカタと音がして、窓に目をやった。
雪が、降ってた。風が、吹いていた。
生まれて初めて見る雪。
不思議と、綺麗に思った。
そのままずっと、私は外を眺め続けていた。

突然。

二つの色が、一面の白の上に立っていた。
忽然と、端然と。
その二人は立っていた。
体つきで女性と分かる二人。
とても良く似た、だけど同じではない人たち。

ーーーーー会いに、行かなくては。

なぜか、そう強く思った。
だから、扉を開けて庭に走り出た。
裸足で足が冷たいこととか、着物が濡れることなんて、頭になかった。
蒼色の方が、楽しげに笑って。
紅色の方が、恭しく頭を下げた。
「「お初にお目にかかります、姫様」」
二つの声が重なる。
雪の白とその方達の蒼と紅。
その三色が、
私が日本というセカイで見る最初で最後の外の景色だった。
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